人気ブログランキング | 話題のタグを見る

~「サラ・ヴォーンとビリー・ホリディの不仲」についての考察

ちょっと長くなってしまいますが・・・

ビリー・ホリデイの自伝は、一部正しく書かれていない、との指摘があります。

しかし、今となっては、私たち一般のジャズ・ファンとしては、当時の状況をさまざまな出版物から類推・憶測するしか手がありません。

   ビリー・ホリデイ自伝「奇妙な果実」(油井正一・大橋巨泉訳) 晶文社
~「サラ・ヴォーンとビリー・ホリディの不仲」についての考察_c0176951_20264175.jpg


サラ・ヴォーンとビリー・ホリデイの不仲について、大先輩からコメントをいただきましたところによると、ビリーは後輩サラを可愛がっていたからそんなことは無い、とのこと。

でも、この自伝「奇妙な果実」によると、やっぱりグレーです。
サラ・ヴォーンのことを記載している部分はいくつかありますが、気になる部分を少し、引用させてもらいます。


①P.64 :(レスター・ヤングとチュー・ベリーのテナー合戦の部分)『ここでチュー・ベリーは、後年サラ・ヴォーンが、私に対して犯したのとおなじ過ちを犯した。彼は「アイ・ガット・リズム」をやろうといった。サラが私に「君に泣く(I Cried For You)」をやろうといったのと同じようなものだ。選りに選ってこの曲を選ぶとは!「君に泣く」は私のおはこだし、「アイ・ガット・リズム」はレスターの十八番なのに。レスターは、すくなくとも15コーラスを独奏した。どのコーラスもちがうフレーズで・・・しかもどれもが前よりも一層美しく。15コーラス目にチュー・ベリーは敗北を感じた。
恰度、サラが、私の8コーラス目にダウンしたように・・・


~「サラ・ヴォーンとビリー・ホリディの不仲」についての考察_c0176951_20271268.jpg

                     ↑
「奇妙な果実」p.64~65の見開き部分。若かりし当時、必死でメモしたのがとってもなつかしい・・・


②(ビリーが1947年麻薬所持の現行犯で収監され、出獄してサラ・ヴォーンに会いに彼女のステージを訪ねたくだり)『私たちはサラがステージの合間にやってくるのを待っていた。私は彼女が私に会うのを喜ぶだろうと思っていた。といっても、彼女は仕事の途中なのだから、簡単に「あら、今日は」とでもいってくれれば十分だったのである。ステージを降りてきた彼女は、私の傍らを顔をそむける様にして通り抜けると、一言もいわずに化粧部屋へ入ってしまった。私が気にしていた当の人間からうけたこの仕打ちは、私を深く傷つけた。
私は打ちのめされて泣き伏した。サラの態度は監獄を出ないほうがよかったと私に思わせた。というより、まだ私が監獄の中にいるか、さもなければ、鉄格子をはめたまま歩いている様な気にさせたのだ



長く引用しましたが、ビリーが思うほどサラはビリーを好ましく思っていなかったような節があるように思えるのはボクだけでしょうか?


サラは天才歌手の名を欲しいままにしていたけれど、マイルス、パーカー、バド、タッド・ダメロンをはじめとする麻薬中毒患者のるつぼのようなジャズ・シーンで生活しており、正直いって彼女だってグレー。もし彼女がクロだったとしたら・・・


そのサラが、いまさらながらにビリーを遠ざけようとしたのは理解できるような気がします。
さぞ、迷惑だったことでしょう。

また、カッティング・コンテストさながらのアドリブ合戦で、ビリーに負けた、とされるサラは、彼女のことをいったいどう思っていたでしょうか。


先輩であるビリーがサラを可愛がる気持ちを持っていたことは正しいかも知れませんが、サラが彼女をどう思っていたか・・・。

また、現在形で仲が悪くなければ、ひとは自伝にこのような記載をするでしょうか。

考えれば考えるほど、実は面白いこと・・・なのです。

サラ・ヴォーンのほうは、「スイングジャーナル」などの記者との対談でもビリー・ホリデイに対しては殆どコメントしていなかったように思うのですが、このことについてどなたかご存知であれば、ぜひお聞かせください。
by kazuo3455 | 2009-01-18 20:05 | ジャズとの出会い

ジャズのこと


by kazuo3455