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~高槻ジャズストリート2013でのリー・コニッツ~317East 32nd Street

高槻現代劇場でのリー・コニッツのステージについての投稿なのですが、あくまで個人的な感想として少しだけ書いてみたいと思います。ネットの世界は恐ろしいのも事実ですから、もっともっと披露したいことがたくさんありますが、はしょっての書き物になることを最初におことわりしておきます。

例えば、ソニー・ロリンズ来日公演をボクは2度見ています。
思い返せばボクがジャズLPを最初に買ってきて聴いたのが、以前にこのBlogでもご紹介したように「Way Out West(Contemporary)」でしたが、彼の場合、最大のヒット作となった「Saxophone Clossus(Prestige)」での超有名曲「セント・トーマス」。このテーマ、ジャズを演奏する人なら、またそうでなくてもだれもが親しんでいるテーマ。彼が目の前で、ナマでこのテーマを演奏しただけで、極度の興奮を覚えるのは当然のこと。実際、情けなくもボクもそうでした。学生時代、また社会人になっても永きにわたって聴いてきた名演奏であり、憧れの一曲。

ところが、一般の方の多くにとって、ことリーに関して言えば、こういったナンバーが見当たらないのも事実です。

楽屋でお会いした彼が、楽器を携えて登場しました。さっきまでお会いしていたので、こちらはいやがうえにも興奮しちゃっています。高槻現代劇場に集まった聴衆も大きな歓声でこれをお迎えしてました。

彼が曲名を告げた。「自分が作ったナンバー『Kary's Trance』をやりまっせ(大阪弁ではなかったと思います)」ダン・テプファ(P)とのデュオです。

そしてテーマが流れ出した。彼はすでに86歳。ボクはYouTube等で観る彼の変わり果てた姿に時代の流れを正直感じていたので、さきにも触れたようにこんなサプライズがなければ多分会わずじまいだったことと思います。
これほどリー・コニッツを聴いてきたボクでさえ、こんな気持ちで彼のステージを迎えていたので、他の方々はいったいどんな気持ちで彼の演奏に触れたのか、とても気になります。ひょっとして、殆ど彼の昔の功績を知らずして期待に胸を膨らませていた方も多かったのではないか、と思えるんです。

でも、でも!

実際に流れてくるテーマ、どこから飛び出すかわからないイマジネイティヴで自由なフレイジング。
そして何よりもその『サウンド!!』
・・・ボクがこれまでレコードでしか耳にしたことのない、まぎれもないLee Konitzそのもののサウンドです。

確かに往年のキレはそこにはもう見当たらないけれど、まさしくコニッツそのもの。

彼は『ステラ』をモチーフにした曲(曲名は憶えていません)をやはりダンとのデュオでやりましたが、最初の一音で演奏を止めるや、ダンにダメ出し。申し訳なさそうに『Sorry』と言ってやり直したダン。
聴衆が唖然とします。高まる緊張の中、いやがうえにも演奏に集中しちゃいます。

そして、デュオで初めて聴く『317East32nd Street』、このナンバーこそはLennie Tristanoのオリジナル(といってもOut Of Nowhereをベースにした一曲)。ここでリーはおなじみの彼独特のフラジオを利かせながら巧みにフレーズを綴っていきます。『Kary's Trance』と並びこの2曲のテーマは、ボクにとってロリンズの『モリタート』や『セント・トーマス』同様のカタルシスを与えてくれるもの。一瞬でわが身が凍りついたようでした。

参考に、52年のトロントでのレニー・トリスターノ・クインテットの演奏をご紹介します。



もう、ここまで聴いたときに、ボクの耳は60年前に彼が残した演奏録音を想像して、『ああ、多分こんな音でふいてたんだろうなァ』と感じていました。響きくるそのサウンドはまさしくリー・コニッツそのものなのです。わかっていただけるかな、この感触。ああ、音はウソをつかないな、まったく!

ナマの彼の『音=サウンド』に触れてみてわかったこと、それはリー・コニッツが決して昔の人なんじゃなく、ボクたちと一緒に今を生きていること、そして、マイルスやジェリー・マリガン、チェット・ベイカーや多くの識者を唸らせたその固有のサウンド(メトロノームオールスターズでは彼は一時、チャーリー・パーカーを抜いて一位に輝いたこともあるのです)を今に響かせてくれていることに驚くと同時に、もう音楽的に死んでるなんて勝手に想像してた自分の浅はかさを笑っちゃいました。


全ての演奏を終えたリーは、腫れ物にさわるような観のあった共演者たちを尻目に、満足そうに上機嫌でステージを去ってゆきました。

やっぱり、彼は本物です。本当に素晴らしかった。

ああ、できることなら、もう一度ナマの演奏に触れたい。

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マイルス・デヴィス:(1948-9年のノネット時代に、数多くの黒人alto奏者がいて仕事にこまっているのにもかかわらず、彼らを雇わず白人のリーを選んだことで黒人ジャズマン達から批判されて)

『リーみたいにすばらしい演奏ができるんなら、たとえ緑色の肌で赤い息を吐いていようが、オレは使うぜ。オレが買ってるのは肌の色じゃない、演奏の腕前なんだ』(出典:中山康樹訳 マイルス・デイビス自叙伝 )
by kazuo3455 | 2013-05-14 01:23 | ジャズとの出会い

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